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【眼と耳で読む】連想Ⅰ【師匠シリーズ】

※ウニさんの作品はPixiv及び「怖い話まとめブログ」さまより、
Youtubeの動画は彼岸さんのUPされている136さんの朗読をお借りしています。
耳で捉えた物語を目で文章を追うことで、さらにイメージは大きく膨らんでいくのではないでしょうか。
 
 


 

[h2vr]
「連想Ⅰ」

 

師匠から聞いた話だ。

 

「二年くらい前だったかな。ある旧家のお嬢さんからの依頼で、その家に行ったことがあってな」
オイルランプが照らす暗闇の中、加奈子さんが囁くように口を動かす。
「その家はかなり大きな敷地の真ん中に本宅があって、そこで家族五人と住み込みの家政婦一人の計六人が暮してたんだ。
家族構成は、まず依頼人の真奈美さん。彼女は二十六歳で、家事手伝いをしていた。
それから妹の貴子さんは大学生。あとお父さんとお母さん、それに八十過ぎのおばあちゃんがいた。
敷地内にはけっこう大きな離れもあったんだけど、昔よりも家族が減ったせいで物置としてしか使っていないらしかった。
その一帯の地主の一族でね。
一家の大黒柱のお父さんは今や普通の勤め人だったし、先祖伝来の土地だけは売るほどあるけど生活自体はそれほど裕福というわけでもなかったみたいだ。
その敷地の隅は駐車場になってて、車が四台も置けるスペースがあった。今はそんな更地だけど、戦前にはその一角にも屋敷の一部が伸びていた」
蔵がね……
あったんだ。
ランプの明かりが一瞬、ゆらりと身をくねらせる。

            ◆

大学二回生の夏だった。
その日僕はオカルト道の師匠である加奈子さんの秘密基地に招かれていた。
郊外の小さな川に面した寂しげな場所に、貸しガレージがいくつも連なっており、その中の一つが師匠の借りているガレージ、すなわち秘密基地だった。
そこには彼女のボロアパートの一室には置けないようなカサ張るものから、別のおどろおどろしい理由で置けない忌まわしいものなど、様々な蒐集品が所狭しと並べられていた。
その量たるや想像以上で、ただの一学生が集めたとは思えないほどだった。
興信所のバイトでそこそこ稼いでいるはずなのに、いつも食べるものにも困っているのは明らかにこのコレクションのためだった。
扉の鍵を開けてガレージの中に入る時、師匠は僕にこう言った。「お前、最近お守りをつけてたろ」
「はい」胸元に手をやる。
すると師匠は手のひらを広げて「出せ」と命じた。
「え? どうしてです」
「そんな生半可なものつけてると、逆効果だ」
死ぬぞ。
真顔でそんなことを言うのだ。たかが賃貸ガレージの中に入るだけなのに。僕は息を飲んでお守りを首から外した。
「普通にしてろ」
そう言って扉の奥へ消えて行く師匠の背中を追った。
どぶん。
油の中に全身を沈めたような。
そんな感覚が一瞬だけあり、息が止まった。やがてその粘度の高い空間は、様々に折り重なった濃密な気配によって形作られていると気づく。
見られている。そう直感する。
真夜中の一時を回ったころだった。ガレージの中には僕と師匠以外、誰もいない。
それでもその暗闇の中に、無数の視線が交差している。
例えば、師匠の取り出した古いオイルランプの明かりに浮かび上がる、大きな柱時計の中から。綺麗な刺繍を施された一つの袋を描いただけの絵から。あるいは、両目を刳り貫かれたグロテスクな骨格標本からも。
「まあ座れ」
ガレージの中央にわずかにあいたスペースにソファが置かれている。
師匠はそこを指さし、自身はそのすぐそばにあった真っ黒な西洋風の墓石の上に片膝を立てて腰掛けた。
墓石の表面には、人の名前らしき横文字が全体を覆い尽くさんばかりにびっしりと彫り込まれている。
どれもこれも、ただごとではなかった。このガレージの中のものはすべて。
どろどろとした気配が、粘性の気流となって僕らの周囲を回っている。
師匠がこの中から、世にも恐ろしい謂れを持つ古い仮面を出してきたのはつい先日のことだった。
あんな怖すぎるものが、他にもたくさんあるのだろうか。
恐る恐るそう訊いてみると、師匠は「そういや、言ってなかったな」と呟いて背後に腕を伸ばし、一つの木箱を引っ張り出した。
見覚えがある。その古い仮面を収めていた箱だ。
もうあんな恐ろしいものを見たくなかった僕は咄嗟に身構えた。
しかし師匠は妙に嬉しそうに木箱の封印を解き、その中身をランプの明かりにかざす。
「見ろよ」
その言葉に、僕の目は釘付けになる。箱の中の仮面はその鼻のあたりを中心に、こなごなに砕かれていた。
「凄いだろ」
なぜ嬉しそうなのか分からない。「洒落になってないですよ」ようやくそう口にすると、「そうだな」と言ってまた木箱の蓋を戻す。
師匠自身が『国宝級に祟り神すぎる』と評したモノが壊れた。
いや、自壊するはずもない。壊されたのだ。
鍵の掛かったガレージの中で。一体なにが起こったのか分からないが、ただごとではないはずだった。
「これと相打ち、いやひょっとして一方的に破壊するような何かが、この街にいるってことだ」
怖いねえ。
師匠はそう言って笑った。そして箱を戻すと、気を取りなおしたように「さあ。なにか楽しい話でもしよう」楽しげに笑う。
それからいくつかの体験談を語り始めたのだ。もちろん怪談じみた話ばかりだ。
最初の話は興信所のバイトで引き受けた、ある旧家の蔵にまつわる奇妙な出来事についてだった。

            ◆

かつて、本宅とその脇に立つ大きな土蔵との間には二つの通路があった。
一つは本宅の玄関横から土蔵の扉までの間の六間(ろっけん)ほどの石畳。
そしてもう一つは本宅の地下から土蔵の地下へと伸びる、同じ距離の狭く暗い廊下。
何故二つの道を作る必要があったのかは昭和に暦が変わった時点ですでに分からなくなっていた。
ただかつて土蔵の地下には座敷牢があり、そこへ至る手段は本宅の地下にあった当主の部屋の秘密の扉だけだったと、そんな噂が一族の間には囁かれていた。
「あながち嘘じゃないと思うがな」
真奈美の父はよくそんなことを言って一人で頷いていた。
「あそこにはなんだか異様な雰囲気があるよ」
家族の中で、土蔵の地下へ平気で足を踏み入れるのは祖父だけだった。
かつて当主の部屋があったという本宅の地下も、今やめったに使うことのないものばかりを押し込めた物置になっており、その埃を被った家具類に覆い隠されるように土蔵の地下へと続く通路がひっそりと暗い口を開けていた。
そこを通り抜けると、最後は鉄製の門扉が待っていて、錆びて酷い音を立てるそれを押し開けると、再び様々な物が所狭しと積み重ねられた空間に至る。座敷牢があった、とされるその場所も今では物置きとして使われていた。
ただ、本宅の地下と違い、本来蔵に納められるべき、古い家伝の骨董品などが置かれていたのだ。
土蔵の地上部分は戦時中の失火により焼け落ち、再建もせずにそのまま更地にしてしまっていた。
元々構造が違ったためか、地下は炎の災禍を免れ、そして地上部分に保管されていた物を、すでにその時使われていなかったその地下に移し変えたのだった。
一階部分が失われ、駐車場にするため舗装で塗り固められてしまったがために、その地下の土蔵に出入りするには、本宅の地下から六間の狭い通路を通る以外に道はなかった。
真奈美の祖父はその地下の土蔵を好み、いつも一人でそこに篭っては、燭台の明かりを頼りに古い書物を読んだり、書き物をしたりしていた。
真奈美はその土蔵が怖かった。
父の言う、『異様な雰囲気』は確かに感じられたし、土蔵へ至るまでの暗く狭い通路も嫌で堪らなかった。
距離にしてわずか十メートルほどのはずだったが、時にそれが長く感じることがあった。
途中で通路が二回、稲妻のように折れており、先が見通せない構造になっているのが、余計に不安を掻き立てた。
本宅から向かうと、まず右に折れ、すぐに左に折れるはずだった。
しかし、一族の歴史の暗部に折り重なる、煤や埃が充満したその通路は、真奈美の幼心に幻想のような記憶を植え付けていた。
右に折れ、左に折れ、次にまた右に折れる。
ないはずの角がひとつ、どこからともなく現れていた。
怖くなって引き返そうとしたら、行き止まりから右へ通路は曲がっていた。さっき右に折れたばかりなのに、戻ろうとすると、逆向きになっているのだ。
その時、どうやって外へ出たのか。何故か覚えてはいなかった。
そればかりではない。たった十メートルの通路を通り抜けるのに、十分以上の時間が経っていたこともあった。
幼いころの記憶とは言え、そんなことは一度や二度ではなかった。
そんな恐ろしい道を潜って、何故土蔵へ向かうのか。それは祖父がそこにいたからだ。
真奈美はその変わり者の祖父が好きで、地下の土蔵で読書をしているのを邪魔しては、お話をせがんだり、お菓子をせがんだりした。
祖父も嫌な顔一つせず、むしろ相好を崩して幼い真奈美の相手をしてくれた。
その祖父は真奈美が小学校五年生の時に死んだ。胃癌だった。
死ぬ間際、もはやモルヒネも効かない疼痛の中、祖父がうわ言のように願ったのは、自分の骨をあの地下の土蔵に納めてくれ、というものだった。
祖父が死に、残された親族で相談した結果、祖父の身体は荼毘に付した後、先祖代々の墓に入った。
ただ、その骨のひと欠片を小さな壷に納めて土蔵の奥にひっそりと仕舞ったのだった。
それ以来、土蔵の地下はよほどのことがない限り家族の誰一人として足を踏み入れない、死せる空間となった。
先祖代々伝わる書物や骨董品の類は、それらすべてが祖父の死の副葬品となったかのように、暗い蔵の中で眠っている。
墳墓。
そんな言葉が思い浮かぶ場所だった。

祖父の死から十五年が経った。
その日、真奈美は半年ぶりにその地下の土蔵へ足を運ぶ羽目になっていた。
叔父が、電話でどうしてもと頼むので仕方なくだ。どうやら何かのテレビ番組で、江戸時代のある大家の作った茶壷が高値で落札されているのを見たらしい。
その茶壷とそっくりなものを、昔その土蔵で見たことがある気がするというのだ。
今は県外に住んでいる叔父は、お金に意地汚いところがあり真奈美は好きではなかったのだが、とにかくその茶壷がもし大家の作ったものだったとしたら親族会議モノだから、とりあえず探してくれ、と一方的にのたまわった。
親族会議もなにも、家を出た叔父になんの権利があるのか、と憤ったが、父に言うと「どうせそんな凄い壷なんてないよ。あいつも勘違いだと分かったら気が済むだろう」と笑うのだ。
それで真奈美は土蔵へ茶壷を探しに行かされることになったのだった。
本宅の地下に降り、黄色い電燈に照らされた畳敷きの部屋を通って、その奥にある小さな出入り口に身体を滑り込ませる。
そこから通常の半分程度の長さの階段がさらに地下へ伸びており、降りた先に土蔵へと伸びる通路があった。
饐えたような空気の流れが鼻腔に微かに感じられる。
手探りで電燈のスイッチを探す。指先に触ったものを押し込むと、ジン……という音とともに白熱灯の光が天井からのそりと広がった。
壁を漆喰で固められた薄暗い通路は、なにかひんやりとしたものが足元から上ってくるようで薄気味悪かった。かつてはランプや手燭を明かりにしてここを通ったそうだが、今では安全のために電気を通している。
だが湿気がいけないのか、白熱灯の玉がよく切れた。そのたびに父や自分が懐中電灯を手に、薄気味悪い思いをしながら玉の交換をしたものだった。今も真奈美の頭上で、白熱灯のフィラメントがまばたきをしている。
いやだ。まただわ。戻ったら、父に直してもらうように言わなければ……
今の家政婦の千鶴子さんは、どうしてもこの地下の通路には入りたくない、と言ってはばからなかった。
『わたし、昔から霊感が強いたちでして、あそこだけはなんだかゾッとしますのよ』
そう言って身震いしてみせるのだ。おかげでこの通路とその先の土蔵の最低限の掃除は家族が交代でやることになっていた。
頼りなくまたたいている明かりの下、最初の曲がり角を越えると土蔵の入り口が見えた。そろそろと歩み寄り、小さな鉄製の扉を手前に引く。
きぃ……
耳障りな音がして、同時に真っ暗な扉の奥からどこか生ぬるいような空気が漏れ出てくる。
扉は狭く、それほど大柄でもない真奈美でも、身を屈めないと入ることが出来ない。
真奈美は身体を半分だけ扉の中に入れ、腕を回りこませて壁際を探る。白熱灯の光が、暗かった土蔵の中に広がった。
ホッと人心地がつく。
もはやそれを手に取る主のいない骨董品や古民具の類が、四方の壁に並べられた棚や箪笥の上にひっそりと置かれている。
本当に値打ちのあるものは終戦の前後に処分したと聞いているので、今残っているのはそれを代々受け継いできた自分たちの一族にしか価値のないもののはずだった。
真奈美は懐から写真を取り出す。ご丁寧にも叔父が、くだんの茶壷が紹介された雑誌の切抜きを送ってきたのだった。
それと見比べながら、壷などが並べられている一角を往復していると、どうやらこのことらしい、というものを見つけることが出来た。
なるほど、形や色合いは確かに似ている。しかし手に取ってみるとやけに軽く、まじまじと表面を眺めると造作も安っぽく思われた。
やはり叔父の思い違いだ。そう思うと少し楽しくなった。
茶壷を片手に、唯一の出入り口へ向かう。狭い扉をなんとか潜ると、一瞬心の中が冷えた気がした。
通路の白熱灯が切れている。
漆喰に囲まれた道の先が闇に飲まれるように見通せなくなっている。
消そうとした土蔵の中の明かりはつけたままにしたが、それでも小さな扉から漏れてくる光はあまりにか細かった。
いやだ。
ここが地の底なのだということを思い出してしまった。
こんな時のために土蔵の中に懐中電灯を置いてなかっただろうか。振り返って探しに戻ろうかと思ったが、面倒な気がして止めた。
たかだか十メートルていどの通路だ。障害物もない一本道だし、自分ももう子どもではないのだから、なにをそんなに怖がることがあるだろう。
我知らず自分にそう言い聞かせ、真奈美は茶壷を胸に抱えて進み始めた。静かだ。耳の奥に静寂が甲高い音を立てている。
ほんの数メートル歩くと曲がり角があった。そこを右に曲がると、今度はすぐに左へ折れる。そこから先は直進するだけで元の入り口だ。
けれど、そっと覗いたその先は光の届かない真っ暗闇だった。
ぞくりと肌が粟立つ。
口元が強張りそうになるのを必死で抑え、なるべく自然な歩調で前へ進んだ。左手を壁に沿わせながら、真っ直ぐに。
なんてことはない。なんてことはない。暗くたって大丈夫。
ほら。すぐに元の入り口だ。

ドシン

え……
ぶつかった。
誰かに。うそ。
全身に寒気が走った。
暗くて何も見えない。そこに誰がいるのかも分からない。
気配だけが通り過ぎていく。土蔵の方へ向かっているようだ。
真奈美はその場に根を張りそうだった足を叱咤して、小走りに入り口の階段の下まで進んだ。
そこまで来ると、頭上から微かな明かりが漏れてきていた。茶壷を抱えたまま階段を上り、ようやく物置部屋まで戻ってきた。
ここもまだ地下なのだと思うと、後ろも振り返らずに部屋を横断して一階へ上がる階段を駆けのぼった。
階段を上がった先にある居間では、父と母がテーブルを囲んでお茶を飲んでいた。
「お。あったか。お宝が」
こちらを見ながら、のん気そうに父がそう言った。
「ねえ、ここ今誰か降りてった?」
真奈美が早口にそう訊くと、父と母は怪訝そうな顔をしてかぶりを振った。
「貴子は?」続けて訊こうとしたが、隣の部屋からテレビの音とともに、その妹の笑い声が聞えてきた。
悪寒がする。
家政婦の千鶴子さんは今日は来ない日だ。そして祖母は風邪を引いて一昨日から入院中だった。いつものことで、大した風邪ではないのだが。
ではさっき地下の通路でぶつかったのは誰なのか。
「ちょっと、気持ち悪いこと言わないでよ」
母が頬を引きつらせながら、無理に笑った。
「泥棒か?」
父が気色ばんで椅子から立ち上がろうとしたが、母が困ったように半笑いをしながらそれを諌める。
「ちょっと、お父さんも。わたしたち、ずっとここにいたじゃない」
そうして地下の物置へ降りる階段を指さす。
そうだ。物置には他に出入り口はない。父と母がずっといたこの居間からしか。その二人が見ていないのだ。誰も降りられたはずはない。
ではさっき暗闇の中でぶつかったのは誰なのだ。
誤って壁にぶつかったのではない。壁にはしっかりと左手をついて歩いていたのだから。
震えてしゃがみ込んだ真奈美の背中を母がさすり、父は騒ぎを聞きつけて居間にやってきた貴子と二人で懐中電灯を手に地下に降りていった。
結局、小一時間ほど地下の物置と通路、そしてその先の土蔵をしらみつぶしに探索したが、異変はなにも見つからなかった。家族以外の誰かがいたような痕跡も。
最後に地下通路の白熱灯の玉を交換してきた父が、疲れたような表情で居間に戻ってくると家族四人がテーブルに顔をつき合わせて座った。そして沈黙に耐えられなくなったように、妹の貴子が口を開いた。
「実はあたしもぶつかったこと、ある」
驚いた。さっき起きたことと全く同じような出来事が二年ほど前にあったと言うのだ。
妹の場合は何の前触れもなく地下の明かりが消え、手探りで通路を引き返そうとしたら、得体の知れない『なにか』に肩が触れたのだと。
さらに驚いたことに、それから父と母も気持ちが悪そうにしながら、それぞれ似た体験をした話を続けた。数年前の話だ。
みんな気のせいだと思い込むようにしていたのだった。そんなことがあるわけはないと。
しかしこうして家族が誰も同じ体験をしていると知った今、ただの気のせいで済むはずはなった。
「お祓い、してもらった方がいいかしら」
母がおずおずとそう切り出すと、父が「なにを馬鹿な」と怒りかけ、しかしその勢いもあっさりとしぼんだ。
みんな自分の身に起きた体験を思い出し、背筋を冷たくさせていた。
そんな中、妹の貴子がぽつりと言った。
「おじいちゃんじゃないかな」
「え?」
「いや、だから、あそこにいたの、おじいちゃんじゃないかな」
地下の暗闇の中でぶつかったのは十五年前に死んだ祖父ではないかと言うのだ。
その言葉を聞いた瞬間、父と母の顔が明るくなった。
そのくせ口調はしんみりとしながら、「そうね。おじいちゃんかも知れないわね」「そうか。親父かも知れないな。親父は土蔵のヌシだったからな」と頷き合っている。
確かに祖父はあの土蔵が第二の家だと言っても過言ではないほどそこへ入り浸っていたし、死んだ後は自分の骨もそこへ葬ってくれと願ったのだ。そして実際に遺骨の一部は小さな骨壷に納められて土蔵の隅に眠っている。
「おじいちゃんか」
真奈美もそう呟いてみる。皺だらけの懐かしい顔が脳裏に浮かんだ。
そして祖父との思い出の断片がさらさらと自然に蘇ってくる。
「おじいちゃん……」貴子が涙ぐみながら笑った。
幽霊を恐ろしいと思う気持ちより、優しかった祖父の魂が今もそこにいるのだと思う、やわらかな気持ちの方が勝っていたのだった。さっきまでの凍りついたような空気がほんのりと暖かくなった気がした。
しかし。
祖父の思い出を語り始めた父と母と妹を尻目に、真奈美は自分の中に蘇った奇妙な記憶に意識を囚われていた。
あれは真奈美がまだ小学校に上がったばかりのころ。いつものように祖父に本を読んでもらおうと、あの薄暗い地下の道を通って土蔵へやってきた時のことだ。
文机に向かって古文書のようなものを熱心に読んでいた祖父が、真奈美に気づいて顔を上げた。そして手招きをしてかわいい孫を膝の上に座らせ、あやすように身体を揺すりながらぽつりと言った。
『誰かにぶつからなかったかい?』
幼い真奈美は顔を祖父の顔を見上げ、そこに不可解な表情を見た。頬は緩んで笑っているのに、目は凍りついたように見開かれている。
『ぶつかるって、だれに?』
真奈美はこわごわとそう訊き返した。
祖父は孫を見下ろしながら薄い氷を吐くように、そっと囁いた。
『誰だかわからない誰かにだよ……』

           ◆

オイルランプの明かりに照らされ、加奈子さんの顔が闇の中に浮かんでいる。黒い墓石の上に腰掛けたまま、足をぶらぶらと前後に揺らしながら。
「それで真奈美さんは我が小川調査事務所に依頼したわけだ。人づてに、『オバケ』の専門家がいるって聞いて」
「どんな、依頼なんです」
「調査に決まってるだろう。その誰だかわからない誰かが、誰なのかってことをだ」
加奈子さんは背後の木箱の中から黒い厚手の布を取り出し、ランプの上に被せた。その瞬間、辺りが完全な暗闇に覆われる。
締め切られたガレージの中は、夜の中に作られた夜のようだ。
うつろに声だけが響く。
「昔の飛行機乗りは、ファントムロックってやつを恐れたらしい。機体が雲の中に入ると一気に視界が利かなくなる。でもしょせん雲は微小な水滴の塊だ。その中で、『なにか』にぶつかることなんてない。ないはずなのに、怖いんだ。見えないってことは。白い闇の中で、目に見えない一寸先に自分と愛機の命を奪う危険な物体が浮かんでいるのではないか…… その想像が、熟練の飛行機乗りたちの心を苛むんだ。その雲の中にある『なにか』がファントムロック、つまり『幻の岩』だ。自転車に乗っていて、目を瞑ったことがあるかい。見通しのいい一本道で、前から人も車もなにもやってきていない状態で、自転車を漕ぎながら目を閉じるんだ。さっきまで見えていた風景から想像できる、数秒後の道。絶対に何にもぶつかることはない。ぶつかることなんてないはずなのに、目を閉じたままではいられない。必ず恐怖心が目を開けさせる。人間は、闇の中に『幻の岩』を夢想する生き物なんだ」
くくく、と笑うような声が僕の前方から漏れてくる。
では、その旧家の地下に伸びる古い隧道で起きた出来事は、いったいなんだったのだろうね?
師匠は光の失われたガレージの中でその依頼の顛末を語った。
真奈美さんはそんなことがあった後、地下通路でぶつかったのは死んだ祖父なのだと結論付けた他の家族に、祖父自身もそれを体験したらしいということを告げずにいた。そして自分以外の家族が旅行などで全員家から出払う日を選んで、小川調査事務所の『オバケ』の専門家である師匠を呼んだのだ。
ここで言う『オバケ』とはこの界隈の興信所業界の隠語であり、不可解で無茶な依頼内容を馬鹿にした表現なのだが、師匠はその呼称を楽しんでいる風だった。
真奈美さんからも「オバケの専門家だと伺いましたが」と言われ、苦笑したという。
ともあれ師匠は真奈美さんの導きで、本宅の地下の物置から地下通路に入り、その奥の土蔵に潜入した。その間、なにか異様な気配を感じたそうだが、何者かの姿を見ることはなかった。
土蔵には代々家に伝わる古文書の類や、真奈美さんの祖父がそれに関して綴った文書が残されていた。今の家族には読める者がいないというその江戸時代の古文書を、師匠は片っ端から読んでいった。
かつてそうしていたという真奈美さんの祖父にならい、一人で土蔵に篭り、燭台の明かりだけを頼りに本を紐解いていったのだ。
そしてその作業にまる一晩を費やして、次の日真奈美さんを呼んだ。

            ◆

「結論から言うと、わかりません」
「わからない、というと……」
「あなたがその先の地下通路でぶつかったという誰かのことです」
文机の前に座ったまま向き直った師匠がそう告げると、真奈美さんは不満そうな顔をした。霊能力者という触れ込みを聞いて依頼をしたのに、あっさりと匙を投げるなんて。そういう言葉を口にしようとした彼女を、師匠は押しとどめた。
「まあわかった部分もあるので、まずそれを聞いてください。これは江戸後期、天保年間に記された当時のこの家の当主の覚え書きです」
師匠はシミだらけの黄色く変色した書物を掲げて見せた。
「これによると、彼の二代前の当主であった祖父には息子が三人おり、そのうちの次男が家督を継いでいるのですが、それが先代であり彼の父です。そして長子継続の時代でありながら家督を弟に譲った形の長男は、ある理由からこの土蔵に幽閉されていたようなのです」
「幽閉、ですか」
真奈美さんは眉をしかめる。
「あなた自身おっしゃっていたでしょう。かつてここには座敷牢があったと。家の噂話のような伝でしたが、それは史実のようです。この地下の土蔵……いえ、そのころは地上部分があったので、土蔵の地下という方が正確かも知れません。ともかく土蔵の地下にはその長男を幽閉するために作られた座敷牢がありました。その地下空間は座敷牢ができる前から存在していましたが、もともとなんのための地下室なのかは不明なようです。この覚え書きを記した当主は、自分の伯父にあたる人物を評して、『ものぐるいなりけり』としています。気が狂ってしまった一族の恥を世間へ出すことをはばかった、ということでしょう。結局、座敷牢の住人は外へ出ることもなく、牢死します。その最後は自分自身の顔の皮をすべて爪で引き剥がし、血まみれになって昏倒して果てたのだと伝えられています」
遠い先祖の悲惨な死に様を知り、真奈美さんは息を飲んだ。それも、自分は今その血の流れた場所にいるのだ。不安げに周囲を見回し始める。
「座敷牢で死んだ伯父は密かに葬られたようですが、その後彼の怨念はこの地下室に満ち、そして六間の通路に溢れ出し、やがて本宅をも蝕んで多くの凶事、災いをもたらしたとされています」
師匠は机の上に積み重ねられた古文書を叩いて見せた。
その時、真奈美さんの顔色が変わった。そして自分の両手で肩を抱き、怯えた表情をして小刻みに震え始めたのだ。
「わたしが………… ぶつかったのは…………」
ごくりと唾を飲みながら硬直した顔から眼球だけを動かして、入ってきた狭い扉の方を盗み見るような様子だった。その扉の先の、地下通路を目線の端に捕らえようとして、そしてそうしてしまうことを畏れているのだ。
師匠は頷いて一冊のノートを取り出した。
「あなたのお祖父さんも、何度か真っ暗なこの通路でなにか得体の知れないものにぶつかり、そのことに恐怖と興味を抱いて色々と調べていたようです。このノートは失礼ながら読ませていただいたお祖父さんの日記です。やはり座敷牢で狂死した先祖の存在に行き着いたようなのですが、その幽霊や怨念のなす仕業であるという結論に至りかけたところで筆をピタリと止めています」
師匠は訝しげな真奈美さんを尻目に立ち上がり、一夜にして散らかった土蔵の中を歩き回り始めた。
「この土蔵には確かに異様な気配を感じることがあります。お父さんなど、あなたのご家族も感じているとおりです。亡くなったお祖父さんもそのことをしきりと書いています。気配。気配。気配…… しかしその気配の主の姿は誰も見ていません。なにかが起こりそうな嫌な感じはしても、この世のものではない誰かの姿を見ることはなかったのです。ただ、暗闇の中で誰かにぶつかったことを除いて」
どこかで拾った孫の手を突き出して、たった一つの扉を指し示す。その向こうには白熱灯の明かりが照らす、地下の道が伸びている。明かりが微かに瞬いている。また、玉が切れかかっているのだ。それに気づいた真奈美さんの口からくぐもったような悲鳴が漏れた。交換したばかりなのに、どうして。呆然とそう呻いたのだ。
「あなたのお祖父さんはこう考えました。本当にこの家を祟る怨念であれば、もっとなんらかの恐ろしいことを起こすのではないかと。確かにそのようなことがあったとされる記録は古文書の中に散見されます。しかし今ではそれらしい祟りもありません。にも関わらず、依然として異様な気配が満ちていくような時があります。これはいったいどういうことなのか。そう思っていた時、お祖父さんはある古文書の記述を見つけるのです」
師匠は文机に戻り、その引き出しから一冊の古びた本を取り出した。
「これは、お祖父さんが見つけたもので、死んだ座敷牢の住人を葬った、当主の弟にあたる人物が残した記録です」
やけにしんなりとした古い紙を慎重に捲りながら、ある頁に差し掛かったところで手を止める。
「彼はこの文書の中で、伯父の無残な死の有り様を克明に描写しているのですが、その死の間際にしきりに口走っていたという言葉も書き記しています。ここです」
真奈美さんの方を見ながら、確かめるようにゆっくりと指を紙の上に這わせた。
「ここにはこう書いています。『誰かがいる。誰かがいる』と」
その時、すぅっ、と扉の向こうの地下道から明かりが消えた。
真奈美さんは身体を震わせながら地下道への扉と、師匠の掲げる古文書とを交互に見やっている。泣き出しそうな顔で。
「あなたにぶつかったのは、誰だかわからない誰か…… あなたのお祖父さんも言っていたように、わたしのたどり着いた結論もそれです。それ以上のことを、どうしても知りたいのですか?」
師匠は静かにそう言って真奈美さんの目を正面から見つめた。

           ◆

淡々と語り終えた師匠の声の余韻が微かに耳に残る。
俺は鼻を摘まれても分からない暗闇の中で、ぞくぞくするような寒気を感じていた。
そしてまた声。
「土蔵から出ようとした時、地下道の白熱灯は消えたままだった。土蔵の中はたよりない燭台の明かりしかなかったので、入り口のそばの照明のスイッチを押したが、なぜかそれまでつかなかった。カチカチという音だけが響いて、地の底で光を奪われる恐怖がじわじわと迫ってきた。代真奈美さんが持ってきていた懐中電灯で照らしながら進もうとしたら、いきなりその明かりまで消えたんだ。叩いても、電池をぐりぐり動かしてもダメ。地面の底で真っ暗闇。さすがに気持ちが悪かったね。で、悲鳴を上げる真奈美さんをなだめて、なんとか手探りで進み始めたんだ。怖くてたまらないって言うから、手を握ってあげた。最初の角を右に曲がってすぐにまた左に折れると、あとほんの五メートルかそこらで本宅の地下の物置へ通じる階段にたどり着くはずだ。だけど……長いんだ。やけに。暗闇が人間の時間感覚を狂わせるのか。それでもなんとか奥までたどり着いたさ。突き当たりの壁に。壁だったんだ。そこにあったのは。階段がないんだよ。上りの階段が。暗闇の中で壁をペタペタ触ってると、右手側になにか空間を感じるんだ。手を伸ばしてみたら、なにもない。通路の右側の壁がない。そこは行き止まりじゃなく、角だったんだ。ないはずの三つ目の曲がり角。さすがにやばいと思ったね。真奈美さんも泣き喚き始めるし。泣きながら、『戻ろう』っていうんだ。一度土蔵の方へ戻ろうって。そう言いながら握った手を引っ張ろうとした。その、三つ目の曲がり角の方へ。わけが分からなくなってきた。戻るんなら逆のはずだ。回れ右して真後ろへ進まなくてはならない。なのに今忽然と現れたばかりの曲がり角の先が戻る道だと言う。彼女が錯乱しているのか。わたしの頭がどうかしてるのか。なんだか嫌な予感がした。いつまでもここにいてはまずい予感が。真奈美さんの手を握ったまま、わたしは言った。『いや、進もう。土蔵には戻らないほうがいい』 それで強引に手を引いて回り右をしたんだ。回れ右だと、土蔵に戻るんじゃないかって? 違う。その時わたしは直感した。どういうわけかわからないが、わたしたちは全く光のない通路で知らず知らずのうちにある地点から引き返し始めていたんだ。三つ目の曲がり角はそのせいだ。本宅と土蔵をつなぐ通路には、どちらから進んでも右へ折れる角と左へ折れる角が一つずつしかない。そしてその順番は同じだ。最初に右、次に左だ。土蔵から出たわたしたちはまず最初の角を右、次の角を左に曲がった。そして今、さらに右へ折れる角にたどり着いてしまった。通路の構造が空間ごと捻じ曲がってでもいない限り、真っ直ぐ進んでいるつもりが、本宅側の出口へ向かう直線でUターンしてしまったとしか考えられない。心理の迷宮だ。だったらもう一度回れ右をして戻れば、本宅の方へ帰れる。『来るんだ』って強引に手を引いてね、戻り始めたんだよ。ゆっくり、ゆっくりと。壁に手を触れたまま絶対に真っ直ぐ前に進むように。その間、誰かにぶつかりそうな気がしていた。誰だかわからない誰かに。でもそんなことは起こらなかった。わたしがこの家の人間じゃなかったからなのか。でもその代わりに奇妙なことが起きた。土蔵に戻ろう、土蔵に戻ろうと言って抵抗する真奈美さんの声がやけに虚ろになっていくんだ。ぼそぼそと、どこか遠くで呟いているような。そして握っている手がどんどん軽くなっていった。ぷらん、ぷらんと。まるでその手首から先になにもついていないみたいだった。楽しかったね。最高の気分だ。笑ってしまったよ。そうして濃霧を振り払うみたいに暗闇を抜け、階段にたどり着いた。上りの階段だ。本宅へ戻ったんだ。真奈美さんの手の感触も、重さもいつの間にか戻っていた」
チリチリ……
黒い布の下でオイルランプが微かな音を立てている。酸素を奪われて呻いているかのようだ。
奇妙な出来事を語り終えた師匠は口をつぐむ。僕の意識も暗闇の中に戻される。息苦しい。
「その依頼は結局どうなったんです」
口を閉じたままの闇に向かって問い掛ける。
「分からないということが分かったわけだから、達成されたことになる。正規の料金をもらったよ。まあ、金払いの悪いような家じゃないし。それどころか、料金以外にも良い物をもらっちゃった」
ガサガサという音。
「あった。土蔵で見つけたもう一つの古文書だよ」
何かが掲げられる気配。
「これは、そこに存在していたこと自体、真奈美さんには教えていない。彼女の祖父はもちろん知っていたようだけど」
 それはもらったんじゃなくて勝手に取ってきたんじゃないか。
「なんですかそれは」
「なんだと思う?」
くくく……
闇が口を薄く広げて笑う。
「座敷牢に幽閉されていたその男自身が記した文書だよ」
紙をめくる音。
「聡明で明瞭な文章だ。あの土蔵で起こったことを克明に記録している。明瞭であるがゆえに、確かに『ものぐるいなりけり』と言うほかない。それほどありえないことばかり書いている。彼は三日に一度、寝ている間に右手と左手を入れ替えられたと言っている。何者かに、だ。左腕についている右手の機能について詳細に観察し、記述してある。それだけじゃない。ある時には、右手と左足を。ある時には、右足と首を。そしてまたある時には文机の上の蝋燭と、自分の顔を、入れ替えられたと書いている」
師匠の言葉に、奇怪な想像が脳裏をよぎる。
「わたしがこの古文書を持ち出したのは正しかったと思っている。危険すぎるからだ。これがある限り、あの家の怪異は終わらないと思う。そしてなにかもっと恐ろしいことが起こった可能性もある。その座敷牢の住人は、最後には自分の顔と書き留めてきた記録とを入れ替えられたと言っている」
書き留めてきた記録? それは今師匠が手にしているであろう古文書のことではないのか。
「そうだ。彼はそこに至り、ついに自分の書き記してきた記録を破棄しようとした。忌まわしきものとして、自らの手で破こうとしたんだ。最後に冷静な筆致でそのことが書かれている。それは成功したのだろうか。彼は顔の皮を自分で引き剥がして死んでいる。彼が破いたものはいったいなんだったのか。そして、現代にまで残るこの古文書は、いったい……」
ゆがむ。闇がゆがむ。
異様な気配が渦を巻いている。
「それからだ。わたしはよくぶつかるようになった。あの地下道ではなく、明かりを消した自分の部屋や、その辺のちょっとした暗がりで。誰だかわからない誰かと……」
ぐにゃぐにゃとゆがむ闇の向こうから、師匠の声が流れてくる。いや、それは本当に師匠の声なのか。
川沿いに立つ賃貸ガレージの中のはずなのに、地面の下に埋もれた空洞の中にいるような気がしてくる。
「そこで立って歩いてみろよ」
囁くようにそんな声が聞こえる。
僕は凍りついたように動かない自分の足を見下ろす。見えないけれど、そこにあるはずの足を。
今は無理だ。
ぶつかる。ぶつかってしまう。
ここがどこだかも分からなくなりそうな暗闇の中、誰だか分からない誰かと。
そんな妖しい妄想に囚われる。
沈黙の時間が流れ、やがて目の前にランプの明りが灯される。覆っていた布を取が取り払われたのだ。黒い墓石に腰掛ける師匠の手にはもう古文書は握られていない。
「この話はおしまいだ」
指の背を顎の下にあて、挑むような目つきをしている。
そして口を開き「おじいちゃんじゃないかな、と言えばこんな話もある」と次の話を始めた。その言葉に反応したように、またまた別の不気味な気配がガレージの隅の一角から漂い始める。
降り積もるように静かに夜は更けていった。

 
(完)

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ウニさんのPixiv/師匠シリーズ「連想Ⅰ」より転載させていただきました。

 
 

『師匠シリーズ』作者、ウニさんについて

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ウニさんの本 書籍 / コミック 作画:片山 愁さん

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